アメリカ本土の最南端、フロリダ半島から島づたいに橋が続いた先にキーウェストがある。作家アーネスト・ヘミングウェイが1930年代に暮らした家は今は博物館になっていて、庭にも屋内にも猫がいる。しかも、その多くは前足の指が6本ある。
この記事では、6本指の猫の由来と遺伝のしくみ(研究でわかっていること)、猫をめぐって起きた裁判、博物館の回り方、向かいの灯台や夕日まで組み込んだ1日コース、東京からの費用、季節ごとの注意とよくある質問をまとめた。
基本データ
| 項目 |
内容 |
| 場所 |
907 Whitehead Street, Key West, Florida(アメリカ) |
| 建物 |
1851年築のスペイン植民地様式の邸宅。国の歴史的建造物 |
| 猫の数 |
60匹近く(博物館の公式サイト) |
| 猫の特徴 |
全頭が多指症の遺伝子を持ち、約半数は指が多い |
| 開館 |
毎日 9:00〜17:00、年中無休 |
| 入場料 |
大人19ドル、6〜12歳7ドル、5歳以下無料 |
| チケット |
正門でのみ販売。予約は不要 |
| 支払い |
カード・スマホ決済は3%の手数料 |
| ガイドツアー |
20〜30分、9:15から15分おき。翻訳台本あり |
| 東京から |
直行便なし。アメリカ本土で乗り継ぎ |
| 費用の目安 |
航空券が往復で約20万〜36万円+現地で数十ドル〜 |
歴史・由来
ヘミングウェイとキーウェスト
博物館の公式サイトによると、ヘミングウェイは友人の作家ジョン・ドス・パソスに勧められ、1928年4月、キューバのハバナを経由してキーウェストにやって来た。妻ポーリーンのおじが買ってくれた新車の到着が遅れ、待っていた3週間のあいだに、長編『武器よさらば』を書き上げたという。
二人はこの島を気に入り、1931年にポーリーンのおじが今の家を買い与えた。家は1851年に、敷地から切り出した石で建てられたスペイン植民地様式の邸宅だ。荒れ果てていた家を夫妻が大がかりに改修し、今の姿になった。
1937〜38年には、2万ドルをかけてプールを造った。キーウェストで初めての地面を掘ったプールで、当時は半径100マイル以内でここだけだったという。費用に驚いたヘミングウェイが「最後の1セントだ」と言って、ぬれたセメントに硬貨を押しこんだという話があり、プールの北の端に今も1セント硬貨が埋まっている。
1940年に夫妻は離婚し、ヘミングウェイはキューバへ移った。それでも1940〜50年代にはキーウェストをたびたび訪れていた。
6本指の猫「スノーホワイト」
博物館によると、ヘミングウェイは船長から6本指の白い猫「スノーホワイト」を贈られた。今いる猫の一部は、その子孫だという。家族の写真の中には、息子たちがスノーホワイトを抱いている一枚も残っている。なお、裁判を伝えたABA Journalの記事では、この猫の名前を「スノーボール」と書いている。名前には揺れがあるようだ。
猫たちに有名人の名前を付けるという、ヘミングウェイの習慣は今も続いている。公式サイトで紹介されている猫には、シャーリー・テンプル、ヘアリー(毛深い)・トルーマン、ハワード・ヒューズ、リタ・ヘイワースといった名前が並ぶ。
ちなみに、ヘミングウェイには「雨のなかの猫」(1925年)という短編もある。博物館の作品一覧にも載っている。
猫の暮らしと6本指のしくみ
「全頭が遺伝子を持つ」の意味
ふつうの猫の指は、前足が5本、後ろ足が4本。博物館の猫は約半数が見た目にも指が多いが、全頭が多指の遺伝子を持っている。そのため、指の数がふつうの猫からも、6本指の子猫が生まれることがある。指が増えるのはたいてい前足で、後ろ足にも出ることがある。親指があるように見えて、ミトンをはめているように見えるのが特徴だ。
多指は猫種ではない。三毛、キジトラ、サビ、白、黒など、どんな毛色・どんな猫種にも出る。体の大きさや性格もいろいろだ。キーウェストは小さな島なので、島の猫の多くが親戚かもしれない、と博物館は書いている。
研究でわかっていること
2008年、イギリスの医学研究会議(MRC)の研究チームが、学術誌『Human Molecular Genetics』に論文を発表した。指が多い猫の集団を調べると、指の形を決める遺伝子(ソニック・ヘッジホッグ)の働きを調節する「ZRS」という領域に変異が見つかった。調べた猫の中には、有名な「ヘミングウェイの猫」も含まれている。
変異はどれも、DNAの文字がたった1つ入れ替わるタイプだった。マウスを使った実験では、この変異が遺伝子を本来とは違う場所で働かせ、指を増やすことが確かめられた。人間の多指症のしくみを知る手がかりにもなっている。
健康管理
博物館の獣医師が、耳ダニの治療、ノミの駆除、虫下し、年1回のワクチン接種などの健康管理をしている。動物薬メーカーのゾエティスから、フィラリアやノミなどの予防薬の提供も受けている。
猫をめぐる裁判
博物館の猫は、裁判になったこともある。ABA Journalによると、アメリカ農務省(USDA)は2003年、入場料を取って猫を宣伝にも使っている以上、博物館は「動物の展示業者」にあたると判断した。農務省は、展示業者の免許を取ること、夜は猫をケージに入れるか、塀を高くするか、夜警を置くこと、全頭に標識をつけること、高い休憩場所を作ることなどを求めた。
博物館は争ったが、2012年12月、連邦控訴裁判所は「猫の展示は博物館の商業目的に欠かせない」として、農務省の規制を認めた。60匹近い猫は、法律の上でも見守られている存在なのだ。
見どころ
ガイドツアー
入場するとガイドツアー(20〜30分)に参加できる。9:15から15分おきに出発し、家の歴史と猫の話を聞ける。公式サイトには翻訳台本のページがあり、日本語の台本(PDF)も用意されているので、英語が不安でも楽しめる。台本はフランス語、スペイン語、イタリア語、ドイツ語、ポーランド語、ロシア語もある。ツアーのあとは、自分のペースで家と庭を見て回れる。
家と庭
スペイン植民地様式の屋敷と、熱帯の植物が茂る庭。ヨーロッパの骨董家具や、アフリカのサファリの記念品が今も残る。執筆に使った仕事場もある。その敷地のあちこちで、猫が当たり前のように過ごしている。
プールと1セント硬貨
プールの北の端の敷石のあいだに、伝説の1セント硬貨が埋まっている。猫探しのついでに探してみたい。
モデルコース
1日コース(博物館+灯台)
時刻は一例。キーウェストの旧市街に泊まる場合。
| 時刻 |
行程 |
| 9:00 |
ヘミングウェイ博物館が開く。正門でチケットを買う |
| 9:15 |
最初のガイドツアー(20〜30分) |
| 9:45 |
家と庭をゆっくり回り、猫探し |
| 11:00 |
通りの向かいのキーウェスト灯台へ。88段を登る |
| 12:00 |
昼ごはん |
| 13:30 |
旧市街を散歩。ほかの博物館へ |
| 夕方 |
灯台の夕日の催しに参加するか、海辺で夕日を眺める |
猫が多く動いている時間は公式には示されていない。朝いちばんは人が少なく、ゆっくり見て回りやすい(一般論として)。
マイアミから日帰りするなら
マイアミからキーウェストまでは道路で約250km、車で約3時間40分(Rome2Rioの表示)。グレイハウンドのバスもあり、こちらは6時間前後かかる。日帰りもできなくはないが、往復で7時間以上の移動になるので、できれば1泊したい。
東京からの行き方と費用
行き方
| 区間 |
目安 |
| 東京→アメリカ本土 |
ダラス、アトランタ、ニューアーク、シカゴなどで乗り継ぎ |
| 本土→キーウェスト空港 |
マイアミ、ダラス、アトランタ、ヒューストンなどから直行便 |
| 空港→旧市街 |
約3.4マイル(約5.5km)、車で約10分 |
| マイアミ→キーウェスト |
車で約3時間40分、バスで6時間前後 |
2026年10月時点で、東京からマイアミ・キーウェストへの直行便はない。キーウェスト空港へは、アメリカン航空(マイアミ、ダラス、シャーロットなど)、デルタ航空(アトランタ)、ユナイテッド航空(ヒューストン、ニューアークなど)が直行便を飛ばしている(2026年冬の案内。季節運航の路線もある)。
費用の目安(1人)
| 項目 |
目安 |
| 航空券(羽田⇔キーウェスト) |
往復 約20万〜36万円 |
| ヘミングウェイ博物館 |
大人19ドル |
| キーウェスト灯台 |
大人17ドル(オンライン15.50ドル) |
| カード払いの手数料 |
博物館は3% |
航空券は Trip.com の表示(2026年10月確認)。11月出発が往復約20万円から、12月出発は約36万円からで、時期によって大きく変わる。宿代は別で、冬のハイシーズンは高くなりやすい。
ベストシーズン・猫に会いやすい時間
米国立気象局の平年値(1991〜2020年、キーウェスト)を見ると、季節の違いがよくわかる。
| 月 |
最高/最低 |
雨量 |
| 1月 |
約24℃/約17℃ |
約51mm |
| 3月 |
約26℃/約19℃ |
約36mm |
| 8月 |
約32℃/約26℃ |
約156mm |
| 9月 |
約31℃/約25℃ |
約209mm |
| 12月 |
約25℃/約19℃ |
約56mm |
- 12〜4月:雨が少なく、過ごしやすい。いちばん雨が少ないのは3月
- 6〜11月:ハリケーンシーズン。とくに8月中旬〜10月中旬は天気予報をよく確認する
- 9月:1年でいちばん雨が多い月
博物館の猫に会いやすい時間や季節を調べたデータは、出典では確認できない。一般論として、暑い昼間の猫は日陰で寝ていることが多い。
持ち物
- 日焼け止め・帽子・サングラス:冬でも最高気温は20℃台半ば
- 水:庭や灯台は屋外。夏は特に
- 現金のドル:博物館はカードだと3%の手数料がかかる
- 薄い上着:冬の朝晩は17℃前後まで下がる
- 雨具:夏から秋はにわか雨が多い
訪ねるときのマナー
- 猫は博物館の家族。触ったりエサをあげたりのルールは公式サイトに書かれていないので、スタッフの案内に従う
- 寝ている猫を起こしたり、抱き上げたりしない
- 団体で行くときは、博物館に問い合わせると団体料金の案内がある
- 6月1日〜11月30日はハリケーンシーズン。特に8月中旬〜10月中旬は天気予報をよく確認する
よくある質問
Q. 猫に触ってもいい?
公式サイトに触ってよいかどうかのルールは書かれていない。猫は博物館で暮らす家族なので、スタッフの案内に従い、猫が嫌がるときは離れよう。エサはあげない。
Q. 予約は必要?
不要。チケットは正門でだけ売っていて、9:15から15分おきにガイドツアーが出る。
Q. 英語ができなくても楽しめる?
公式サイトには翻訳台本のページがあり、日本語の台本も用意されている。ツアーのあとは自由に回れるので、猫を見るだけなら言葉はあまり困らない。
Q. 6本指の猫は体が弱いの?
博物館は、多指は猫種ではなく、どんな猫にも出る特徴だと説明している。研究では、指の形を決める遺伝子の調節領域の小さな変異が原因とわかっている。指が多いから特別に強い・弱いという話は、出典では確認できない。
Q. 子ども連れでも行ける?
行ける。5歳以下は無料、6〜12歳は7ドル。向かいの灯台は7歳未満が無料だ。灯台の塔は88段の階段なので、小さな子どもとは手をつないで。
Q. ハリケーンの時期に行っても大丈夫?
6〜11月はハリケーンシーズンで、9月は雨もいちばん多い。旅行の直前まで米国立ハリケーンセンターの予報を確かめ、変更しやすい航空券や宿を選んでおくと安心だ。
合わせて行きたい周辺スポット
- キーウェスト灯台と灯台守の家:博物館の通りの向かい(938 Whitehead Street)。1848年に開いた灯台で、初代の灯台守は女性だった。1969年に役目を終え、今は博物館。88段を登ると島が見渡せる。毎日10:00〜17:00(最終入場16:30)、大人17ドル
- 灯台の夕日の催し:灯台を運営するキーウェスト芸術歴史協会は、夕日の時間に合わせた「ライトハウス・サンセット・エクスペリエンス」も案内している。開催日や料金は公式サイトで確かめたい
- 協会のほかの博物館:同じ協会が、税関の建物を使った美術・歴史博物館、イースト・マーテロ砦の博物館、テネシー・ウィリアムズ博物館も運営している
編集部のひとこと
指が多いからといって特別に強いわけでも、弱いわけでもない。どの猫も猫。それでも、ふっくらした「ミトン」のような前足は、一度見ると忘れられない。文豪の家で、裁判まで乗り越えて暮らす猫たちに、ちょっと敬礼したくなる。
関連項目