東京・世田谷の住宅街に、白い招き猫が何百、何千と並ぶお寺がある。豪徳寺だ。招き猫の発祥の地の一つとされ、国内だけでなく海外からも人が訪れる。新宿から電車で15分ほど、東京駅からでも1時間かからずに行ける、いちばん手軽な「猫の旅」かもしれない。
境内には生きた猫が暮らしているわけではない。主役は、願いがかなった人たちが納めていった陶器の招き猫たちだ。とはいえ近所の猫がふらりと遊びに来ることもある、と寺の公式サイトにも書かれている。この記事では、言い伝えと寺の歴史、境内の猫の探し方、世田谷線で回る半日コース、費用、よくある質問までをまとめた。
基本データ
| 項目 |
内容 |
| 正式名 |
大谿山 豪徳寺(曹洞宗) |
| 場所 |
東京都世田谷区豪徳寺2-24-7 |
| 猫との関わり |
猫が井伊直孝を招いた言い伝え。招福猫児(まねきねこ) |
| 生きた猫 |
境内に住む猫はいない。近所の猫が来ることはある |
| 参拝時間 |
6:00〜17:00(2026年10月時点) |
| 寺務所 |
8:00〜15:00(招き猫などの授与はここ) |
| 拝観料 |
公式サイトに拝観料の案内はない |
| 招き猫の値段 |
500円〜10,000円(大きさによる。2026年7月改定) |
| 最寄り駅 |
東急世田谷線・宮の坂駅(徒歩5分)、小田急線・豪徳寺駅(徒歩15分) |
| 店・トイレ |
境内に売店はない。食事は駅前の商店街で |
| 東京から |
新宿から電車で約15分+徒歩。片道200円前後 |
歴史・由来
猫が殿様を招いた話
豪徳寺の公式サイトによると、江戸時代のはじめ、鷹狩りの帰りに寺の前を通りかかった殿様が、門前にいた猫に手招きされた。寺に立ち寄ると、まもなく雷が鳴って雨が降り出し、殿様は濡れずにすんだ。和尚との話も楽しかったこの殿様は、その幸運にたいそう感動したという。殿様は彦根藩の2代藩主・井伊直孝だった。
小さな庵から大名家の菩提寺へ
寺のもとになったのは、文明12年(1480年)に建てられた「弘徳院」という庵だ。Wikipediaによると、世田谷城主の吉良政忠が伯母のために建てたもので、はじめは臨済宗、天正12年(1584年)に曹洞宗に改まった。
寛永10年(1633年)、世田谷が彦根藩の領地になると、井伊家はこの弘徳院を江戸での菩提寺に定め、直孝の支援で寺は立て直された。万治2年(1659年)には、直孝の法号「久昌院殿豪徳天英大居士」から一字をとって「豪徳寺」と名を改めている。
寺の周りは、中世に吉良氏が城を構えた場所でもある。世田谷区によると、世田谷城は南北朝のころに吉良氏が築き、8代200年以上の居城だったが、天正18年(1590年)、豊臣秀吉の小田原攻めのときに廃城になった。寺のすぐそばの世田谷城阯公園に、土塁や谷が残っている。Wikipediaによると、豪徳寺の周辺そのものが世田谷城の主要部だったとされる。猫の寺である前に、ここは中世の城と近世の大名家の歴史が重なる場所なのだ。
井伊家ゆかりの品々
寺には井伊家とのつながりを示すものが多い。公式サイトによると、赤門は井伊家の上屋敷にあった長屋門を寄進されたもの。法堂には、寺宝の「井伊直弼肖像画」が飾られている。茶室「無二庵」は直弼が愛した茶室を再建したもので、直弼が亡くなったあと、元彦根藩士の遠城謙道が墓守として半世紀を豪徳寺で過ごし、その庵として井伊家から与えられたという。Wikipediaによると、墓地には桜田門外の変で直弼を守って亡くなった彦根藩士8人の慰霊碑もある。
招き猫の明るいイメージとは別に、幕末の大事件の記憶も静かに残っている。招福殿だけ見て帰るのはもったいない。
招福猫児(まねきねこ)と境内の猫
右手を上げ、小判を持たない
豪徳寺では、福を招いた猫を「招福猫児(まねきねこ)」と呼んで祀っている。特徴は右手を上げていて、小判を持っていないこと。寺の説明によると、招き猫は人を招いて縁を運んでくれるが、福そのものをくれるわけではない。縁を生かせるかどうかはその人しだいで、感謝の気持ちがあれば福は自然とやって来る、という教えからこの姿になっている。
奉納所の招き猫
招福殿の横の奉納所には、大小の招き猫がぎっしり並ぶ。奉納に決まりはないが、願いがかなったあとに納める人が多いそうだ。招福殿は昭和16年に建てられ、令和4年に改修された。堂内には招福観音菩薩が祀られている。
三重塔の猫を探す
2006年に完成した高さ22.5mの三重塔には、十二支の彫刻と一緒に、いくつかの猫が飾られている。公式サイトは「全部で何体いるか、数えに来てほしい」と呼びかけている。子(ねずみ)の場所には招き猫の姿があり、ねずみと猫が仲よく並んでいるのも豪徳寺らしい。十二支は方角どおりに配置されていて、子と猫は北にいる。塔の中には「招福猫児観音像」も安置されている。
本物の猫は「会えたら幸運」
寺の公式サイトには、近所の猫が遊びに来ることもあり、出会えたら何かいいことがあるかもしれない、と書かれている。何匹いる、いつ来る、という情報は寺の公式サイトでは確認できない。保護猫や地域猫の活動の拠点でもないので、生きた猫は「会えたら幸運」くらいに考えておこう。
見どころ
- 招福殿と奉納所:写真で有名な、白い招き猫がずらりと並ぶ場所
- 三重塔:十二支と猫の彫刻。猫を数えるのが楽しい
- 井伊家墓所:2008年に国の史跡に指定。2代直孝や、幕末の大老・13代直弼の墓がある。江戸時代の大名墓所の形をよく残している
- 仏殿:延宝5年(1677年)建立。世田谷区の有形文化財
- 梵鐘:延宝7年(1679年)に鋳造された、区内でいちばん古い鐘。区の有形文化財
- 山門と松並木:石門から山門までの参道の松並木も見事だ
- 開祖堂・地蔵堂:開祖堂は正月三が日・お彼岸・お盆だけ、地蔵堂は土日祝とそれらの時期に開く
モデルコース
半日コース(世田谷線でぐるっと)
時刻は一例。乗る前に、小田急・東急の公式の時刻表で確かめておきたい。
| 時刻 |
行程 |
| 10:00 |
新宿から小田急線(各駅停車)に乗る |
| 10:15 |
豪徳寺駅に着く。商店街を通って歩く |
| 10:30 |
豪徳寺。招福殿、三重塔の猫探し、井伊家墓所 |
| 11:30 |
寺務所で招き猫や御朱印を受ける(15時まで) |
| 11:45 |
世田谷城阯公園で土塁の跡を見る |
| 12:15 |
宮の坂駅から世田谷線で松陰神社前へ |
| 12:30 |
松陰神社に参拝し、駅周辺で昼ごはん |
| 14:00 |
世田谷線で三軒茶屋へ。渋谷に出て帰る |
招き猫電車に乗りたいなら
世田谷線には、豪徳寺の招き猫をデザインした「幸福の招き猫電車」が走っている。どの時刻に来るかは決まっていないので、時間に余裕があれば、宮の坂駅で1〜2本見送ってみるのも手だ。世田谷線は全線160円なので、乗り降りを重ねても大きな出費にはならない。
東京からの行き方と費用
| 区間 |
時間 |
運賃 |
| 新宿→豪徳寺駅 |
約15分 |
IC 199円 |
| 豪徳寺駅→寺 |
徒歩約15分 |
- |
| 世田谷線(全線) |
- |
160円 |
| 宮の坂駅→寺 |
徒歩約5分 |
- |
運賃は2026年10月時点。小田急線の運賃は駅探の表示、世田谷線は東急の公式サイトによる。世田谷線は全線どこまで乗っても大人160円、小児80円で、ICカード・クレジットカード・現金が使える。乗るときに払う前払い制だ。
小田急線の豪徳寺駅と世田谷線の山下駅は、乗り換えができる。新宿からなら、豪徳寺駅から歩いてもいいし、山下駅で世田谷線に乗り換えて宮の坂まで1駅乗ってもいい。渋谷方面からなら、三軒茶屋から世田谷線に乗るのが近い。
車の場合、公式サイトには「参道から入るように」とだけ案内されている。駐車場の台数や料金は公式サイトでは確認できないので、電車で行くほうが安心だ。
費用の目安:新宿から往復で約400円。世田谷線を何回か乗っても1,000円前後。招き猫を受けるなら、さらに500円〜。
ベストシーズン・猫に会いやすい時間
境内には梅、桜、牡丹、芍薬、つつじ、晩秋の紅葉など季節の花木があり、公式サイトでも四季の境内を紹介している。招き猫の奉納所は一年中見られるので、花の時期に合わせるのがおすすめだ。
- 朝:門は6時に開く。人の少ない時間に写真を撮りたいなら朝がいい(混み具合のデータは公式にはない。一般論として)
- 15時:寺務所が閉まる。招き猫や御朱印がほしいなら、それより前に
- 17時:閉門。2024年3月に閉門時間が変わり、今は17時
近所の猫に会いやすい時間や季節は、出典では確認できない。猫は一般に朝夕に動くことが多いが、これは豪徳寺に限った話ではない。
持ち物
- 小銭とICカード:授与品は500円から。世田谷線もICで乗れる
- 招き猫を入れる袋:陶器なので、割れないように包めるものがあると安心
- 歩きやすい靴:豪徳寺駅から15分歩く。境内も広く、砂利道がある
- 雨具・日傘:見どころのほとんどが屋外
訪ねるときのマナー
- 招き猫を受けたいなら15時までに寺務所へ。大きさによっては品切れのこともあると公式サイトにある
- 奉納された招き猫に落書きをしない(2024年3月に寺が注意を出している)
- 奉納所の招き猫を動かしたり、持ち帰ったりしない
- お寺は祈りの場所。招き猫の前で長時間場所をとらない。墓所では静かに
- ガイドや撮影の商用利用は事前の相談が必要。寺は2026年8月にも「商業目的でのガイド活動について」というお知らせを出している
- 近所の猫に会っても、追いかけたり食べ物をあげたりしない
よくある質問
Q. 境内に猫はいる?
寺で飼っている猫や、境内に住みついた猫はいない。主役は奉納された招き猫だ。近所の猫が遊びに来ることはある、と公式サイトにある。
Q. 招き猫はいくら?どこで買える?
寺務所(8:00〜15:00)で受けられる。招福猫児は大きさによって500円〜10,000円、ケース入りの豆サイズは1,000円(2026年7月改定後の公式サイトの表示)。お守りや絵馬は各1,000円、御朱印帳は御朱印つきで2,500円。
Q. 招き猫は返しに行かないといけない?
奉納に決まりはない、と公式サイトにある。願いがかなったあとに納める人が多いそうだ。
Q. 雨の日でも楽しめる?
楽しめるが、奉納所も三重塔も墓所も屋外にある。傘を差して回ることになる。奉納所の前は人が集まりやすいので、雨の日は傘がぶつからないように気をつけたい。
Q. 子ども連れやペット連れでも行ける?
子ども連れなら、三重塔の猫探しが楽しい。ペットを連れて入れるかどうかは公式サイトでは確認できないので、事前に寺に問い合わせておきたい。
Q. 御朱印はもらえる?どれくらい時間をみればいい?
御朱印帳は青・赤・白の3色があり、御朱印つきで2,500円(帳面だけなら2,000円)。受付は寺務所で15時まで。境内を見て回る時間は、招福殿と三重塔だけなら30分ほど、井伊家墓所や仏殿までゆっくり見るなら1時間ほどが編集部の目安だ。
Q. 拝観料はかかる?
公式サイトには拝観料の案内がない。招き猫や御朱印などの授与品は有料だ。
合わせて行きたい周辺スポット
- 世田谷城阯公園:豪徳寺2-14-1。昭和15年に開園した区内でただ一つの歴史公園で、東京都の文化財。土塁や谷が残る
- 松陰神社:世田谷区若林4-35-1。明治15年創建で、吉田松陰を祀る。境内に松陰らの墓所と、松下村塾を模した建物がある。開門は7:00〜17:00。安政の大獄で松陰を処刑に追いこんだのは、豪徳寺に眠る大老・井伊直弼だった。同じ世田谷線の沿線に、二人が眠っていることになる
- 招き猫電車:東急世田谷線を走る「幸福の招き猫電車」。豪徳寺の協力で、車体に招き猫、つり革も招き猫の形、床には猫の足跡。2017年に登場し、2019年に復活した。来る時刻は決まっていないので、出会えたら幸運だ
編集部のひとこと
招くのは福ではなく縁。猫と出会えたことも、きっと一つの縁だ。三重塔の猫を数えていると、ねずみと仲よく並ぶ招き猫にほっとする。うちの猫にも、ちょっと手を上げてもらいたくなる。
関連項目