ボルネオ島の北西、マレーシア・サラワク州の州都クチン。マレー語で猫は「kucing(クチン)」と言い、町の名前と同じ響きだ。それにちなんで、町のあちこちに猫の像が立ち、市役所の中には猫の博物館まである。2025年には、飼い猫と一緒に街を歩く「猫のパレード」も企画された。
ただし、ここは「野良猫をなでて回る」旅先ではない。サラワク州では2017年から狂犬病が出ていて、猫に引っかかれて亡くなった人もいる。この記事では、猫の町の由来と見どころに加えて、現地での1日の回り方、東京からの費用、知っておきたい注意点とよくある質問をまとめた。
基本データ
| 項目 |
内容 |
| 場所 |
マレーシア・サラワク州クチン(ボルネオ島の北西部) |
| 猫との関わり |
地名が「猫」と同じ響き。猫の像、猫博物館、猫のパレード |
| 猫博物館 |
毎日 9:00〜16:30、祝日は休み。外国人の入場料は10リンギとされる |
| 気候 |
1年中23〜32℃ほど。11〜2月は雨が多い |
| お金 |
マレーシア・リンギ(RM) |
| 言葉 |
公用語はマレー語。町なかでは英語がよく通じる |
| コンセント |
英国と同じ角3ピン、220〜240V |
| 東京から |
直行便なし。クアラルンプールなどで乗り継ぎ、片道10時間前後〜 |
| 航空券 |
往復5万円台からの表示もあるが、時期で大きく変わる |
| 注意 |
サラワク州で狂犬病が発生中。動物にかまれた・引っかかれたらすぐ受診 |
町の名前と猫
名前の由来には2つの説がある(サラワク州観光局)。
- 1839年、のちにサラワクを治めるイギリス人ジェームズ・ブルックが土地の名前をたずねたところ、地元の人が近くの猫を指さして聞かれたと思い、「クチン(猫)」と答えた、という説
- 竜眼(リュウガン)の実を地元で「マタ・クチン(猫の目)」と呼んでいて、そこから来た、という説
どちらが本当かは決まっていない。ただ、町は「猫の町」を名物として楽しんでいる。
1988年8月1日、猫の町が動き出す
猫博物館を運営するクチン北市役所によると、のちに博物館の中身になる猫のコレクションが初めて展示されたのは1988年8月1日。サラワク州の首相夫妻の発案だったという。コレクションは1992年、市役所の新しい本庁舎の完成に合わせて市に引き渡され、1993年に博物館として開館した(Wikipedia)。
猫の暮らしと保護活動
サラワク州の狂犬病
猫好きがクチンを訪ねる前に、必ず知っておきたいことがある。サラワク州では2017年7月に狂犬病の流行が宣言され、2026年5月までに人の感染が累計94人、そのうち87人が亡くなった(州保健局の発表、Free Malaysia Today)。
猫博物館があるペトラジャヤ地区では、22歳の女性が野良猫に引っかかれたあと狂犬病で亡くなった例も報じられている。同じ報道によると、2026年1月1日〜5月2日にサラワク州で報告された動物によるけがは8,171件。そのうち63.7%が猫にかまれた・引っかかれたもので、7割近くは飼われている動物によるものだった。
厚生労働省は、狂犬病は日本など一部の国を除いて世界中にあり、アジアでは犬と並んで猫も主な感染源だと案内している。発症するとほぼ助からないが、かまれたあとすぐにワクチンを打てば発症を防げる。
町の名前が「猫」でも
2026年5月の報道では、亡くなった人の多くが、かまれたり引っかかれたりしたあと医療機関に行っていなかった。飼い犬・飼い猫のワクチンと、かまれたらすぐ受診することが、くり返し呼びかけられている。猫の町の猫たちも、ほかの町の猫と同じように、人の手当てと見守りを必要としている。保護団体の活動や不妊手術の数を示す公式の数字は、今回は確認できなかった。
見どころ
猫の像めぐり
サラワク州観光局が紹介している主な像は3つ。
- パドゥンガン通りの大きな白猫:町の目印。お祭りや行事に合わせて衣装が変わる
- 4匹の白い招き猫:パドゥンガン通りの西側、石の台の上で前足を振っている
- 猫の家族の像:トゥンク・アブドゥル・ラーマン通り。親猫2匹と子猫7匹
どれも外にあるので、時間を気にせず見に行ける。衣装が変わる白猫は、行く時期によって見た目が違うのも楽しみだ。
猫博物館(DBKU Cat Museum)
| 項目 |
内容 |
| 場所 |
クチン北市役所の1階(シオルの丘、ペトラジャヤ地区) |
| 開館 |
毎日 9:00〜16:30、祝日は休み |
| 入場料 |
13歳以上の外国人10リンギ、7〜12歳と60歳以上は5リンギとされる |
| 広さ |
1,035m²、展示室4つ |
| 展示 |
絵画や記念品など4,000点以上 |
市役所の建物は海抜60mの丘の上にあり、クチンの町を見下ろす。博物館はそこに入っていて、「世界初の猫博物館」をうたう(サラワク州観光局)。
展示は4つの部屋(A〜D)に分かれていて、古代エジプトの猫、日本の招き猫、現代アート、ボルネオの野生のネコ、猫のミイラまで並ぶ(市役所)。英語版Wikipediaによると、猫と人の歴史を約5,000年さかのぼり、迷信や文化への影響もたどる構成だ。ボルネオに暮らす5種の野生のネコの展示があり、世界でもっとも珍しいネコとされるボルネオヤマネコの標本もある。ハローキティやガーフィールド、ドラえもんといった「有名な猫」のコーナーや、猫グッズの売店もある(サラワク州観光局)。
入場料は2018年8月から有料になった。市役所のページには金額が書かれていないため、表の金額は旅行サイト(Malaysia Traveller)の表示による。現地で確かめたい。
猫のパレード
2025年9月27日の18時から22時には、「Live Cat Parade 2025」として、参加者が飼い猫を連れて街を歩くパレードが予定され、マーケット通りやメインバザール通りなど旧市街の道路の通行止めが告知された(Malay Mail)。毎年の開催かどうか、2026年の日程は、確かな出典では確認できなかった。
現地での1日の回り方
クチンは東京からの直行便がなく、着いた日はほぼ移動で終わる。猫の名所を回るなら、まる1日を現地にとっておきたい。以下は、2026年10月時点の公式の開館時間をもとにした例だ。
| 時刻 |
行程 |
| 9:00 |
猫博物館へ。開館と同時に入ると落ち着いて見られる |
| 10:30 |
タクシーか配車アプリで川の南側へ |
| 11:00 |
パドゥンガン通りの白猫、招き猫の像 |
| 12:00 |
昼ごはん。午後の暑い時間は屋内へ |
| 13:30 |
ボルネオ文化博物館(最終入場16:00) |
| 15:30 |
トゥンク・アブドゥル・ラーマン通りの猫の家族の像 |
| 夕方 |
サラワク川沿いのウォーターフロントを散歩 |
猫博物館は川の北側の丘の上、猫の像は南側の町なかにある。歩いて回る距離ではないので、移動は車を使うのが現実的だ。祝日は猫博物館が休みなので、マレーシアとサラワク州の祝日と重ならない日にしたい。
半日だけなら、猫博物館と白猫の像の2か所に絞る。2日目があれば、郊外のセメンゴ野生動物センターでオランウータンを見に行く手もある(下の「周辺スポット」)。
東京からの行き方と費用
乗り継ぎの例
| 区間 |
目安 |
| 成田→クアラルンプール |
直行便で7時間25〜40分 |
| クアラルンプール→クチン |
約1時間45分 |
| ほかの経路 |
シンガポール経由もある |
| 空港→中心部 |
タクシーか配車アプリ |
成田からクアラルンプールへは、2026年10月時点でマレーシア航空や日本航空などの便がある。たとえば10時台に成田を出ると、現地時間の16時45分ごろクアラルンプールに着く(駅探の時刻表)。そこからクチン行きに乗り継げば、その日の夜にクチンに入れる。2026年10月時点で、日本からクチンへの直行便は見当たらなかった。
マレーシアの国内線でも、サラワク州に入るときは入国審査がある。サラワク州は独自に出入りを管理していて、外国からだけでなく、ほかの州から来た人も到着時に審査を受ける(Oxford Business Group)。クアラルンプールからの乗り継ぎでもパスポートが必要だ。マレーシアの入国手続き(オンラインの到着カードの登録など)は変わることがあるので、出発前に在日マレーシア大使館やマレーシア入国管理局で確認してほしい。
費用の目安(大人1人)
| 項目 |
目安 |
| 航空券(東京⇔クチン) |
5万円台からの表示(skyticket)。時期で大きく変わる |
| 猫博物館 |
10リンギ(外国人の大人、旅行サイトの表示) |
| ボルネオ文化博物館 |
50リンギ(外国人の大人、州政府) |
| 市内の移動 |
タクシー・配車アプリ |
航空券の金額は、2026年10月時点のskyticketの表示。マレーシア航空はシンガポール経由、エアアジアはクアラルンプール経由の便がある。運賃は時期と予約のタイミングでかなり変わるので、航空会社のサイトで比べてほしい。
ベストシーズン・猫に会いやすい時間
- 6〜10月:サラワク州は1年中23〜32℃ほどで、6〜10月は比較的過ごしやすい(Oxford Business Group)
- 11〜2月:雨が強い時期。屋内の博物館を中心に組むとよい
- 行事:白猫の像はお祭りに合わせて衣装が変わる(サラワク州観光局)。2025年は9月下旬に猫のパレードが予定されていた
「猫に会う」のが主役の町ではないので、猫に会いやすい時間を示した出典はない。像と博物館は天気や時間に関係なく楽しめる。猫博物館は16:30まで、ボルネオ文化博物館は最終入場16:00なので、午前中から動くのがコツだ。
持ち物
- パスポート:国内線でサラワク州に入るときも審査がある
- 現金のリンギ:小さな施設や屋台ではカードが使えないことも考えて
- 折りたたみ傘:雨の多い町。スコールに備えて
- 変換プラグ:英国と同じ角3ピン(BFタイプ)
- 薄手の上着:外は暑いが、博物館や車内は冷房が強いことが多い
- 石けん・ウェットティッシュ:万一引っかかれたら、すぐ傷口を洗えるように
訪ねるときのマナー
- 野良猫・野良犬には近づかない、触らない。サラワク州では狂犬病で亡くなる人が出ている
- かまれた・引っかかれたら、傷口を石けんと流水でよく洗い、すぐ医療機関へ。帰国時に検疫所に申し出る(厚生労働省)
- 猫博物館は祝日が休み。マレーシアとサラワク州の祝日を確かめてから行く
- 博物館は市役所の建物の中にある。役所を訪ねている人のじゃまにならないように
- 入場料や開館時間は2026年10月時点の情報。現地や公式で確認する
よくある質問
Q. 街に猫はたくさんいる?
クチンが「猫の町」と呼ばれるのは、地名と像と博物館のためで、野良猫が多いからではない。街の猫の数を示した確かな出典は見当たらなかった。猫に会うより「猫の文化」に会いに行く町、と考えるとよい。
Q. 野良猫をなでてもいい?
おすすめしない。サラワク州では狂犬病が出ていて、野良猫に引っかかれて亡くなった人もいる。2026年1〜5月の動物によるけがも、6割以上が猫によるものだった。かわいくても、見るだけにしておこう。
Q. 日本から何日あれば行ける?
直行便がないので、行きと帰りでそれぞれほぼ1日かかる。現地でまる1日過ごすなら、2泊3日が最短の目安。セメンゴ野生動物センターなど郊外にも足をのばすなら、3泊以上あると余裕がある。
Q. 雨の日でも楽しめる?
猫博物館もボルネオ文化博物館も屋内なので、雨の日向きだ。猫の像めぐりは、雨の合間をねらって車で回るとよい。
Q. 子ども連れでも行ける?
猫博物館は子どもの料金が安い(7〜12歳は5リンギとされる)。ボルネオ文化博物館も、12歳以下の外国人は20リンギと大人より安い(州政府)。ただ、子どもは動物に手を出しやすいので、狂犬病の話を出発前に伝えておきたい。
Q. 猫博物館の見学時間はどのくらい?
公式の目安はない。展示室4つ、4,000点以上という規模から、1時間ほどみておくと落ち着いて回れる。
合わせて行きたい周辺スポット
- ボルネオ文化博物館:サラワク博物館局が運営する、町の中心の博物館。外国人の大人50リンギ、平日9:00〜16:45、週末と祝日9:30〜16:30(最終入場16:00)。断食明け大祭やクリスマスなど休館日がある(州政府)
- セメンゴ野生動物センター:クチンから24km。1975年にできた、けがをした動物や孤児になった動物を保護する施設で、オランウータンのリハビリで知られる。今は半野生のオランウータンが森で暮らしている(サラワク森林公社)。エサの時間や入場料は公式で確認してから行きたい
- サラワク川のウォーターフロント:町の南岸に沿った遊歩道。夕方の散歩にちょうどいい
編集部のひとこと
町の名前が猫、という一点だけで行きたくなる。猫好きにとっては、旅の理由はそれで十分だ。ただ、猫の町だからこそ、猫との距離のとり方も大事になる。なでられない分、像と博物館で思いきり猫を浴びてこよう。
関連項目